長々と、ソファーに寝そべっているバロールをレイチェルはのぞきこんだ。
伏せられている睫は長く、彫りの深い整った顔立ちは、野性的な色香を盛大に撒き散らしている。

だが、レイチェルは物足りなかった。

ゆっくりとバロールの髪をすく。
前髪を後ろになでつけるように。
目が薄く開く。
半ば眠りについていても、バロールはバロールだ。
放つ光は変わらない。
凍てつくレイチェルの体を溶かす光は、この男だけが持っている。



この目だ……………
レイチェルはどこか安堵とも言える感情に苦笑した。
自分には無いものを放つ。
目を閉じたこの男はレイチェルにとって価値が半減する。

そう理解したのはいつだったか。
この男は目を開けていなければ。

それは渇望。
乾いた大地を行く旅人がオアシスを求めるように。
吹雪を行く旅人が暖を求めるように。

「戻ったのか。」
「ん。」
「そうか。」
目が閉じられた。
「起きろ。」

目を閉じたバロールにレイチェルは馬乗りになった。


耳裏を触れるか触れないかでつつ…とくすぐる。

ひくり、と筋肉がレイチェルでないと分からない程度に引きつる。

たっぷりとした濃灰色の髪をすいていた手は喉元に伸び軽く踊るようにくすぐる。
顔を寄せ、またささやく。
「目、開けてよ。」
相変わらず両の手はくすぐりに費やされている。

「おい。」
首を振りバロールがレイチェルを睨む。
レイチェルは手品めいた仕草でクッキーを取り出した。
「食べる?」
口元に差し出すと、バロールは大人しくかじった。

レイチェルは微笑み、またバロールの髪に手を伸ばした。










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